ハート♥剛毛系

心が剛毛な心臓モサモサ系の人の散文。主に「自分のこと」を書くのがテーマです。

結婚して改姓すること

先日、久しぶりに会った知人男性が結婚していた。
結婚式はまだ先で、とりあえず婚姻届を出したということだった。
共働きだが、改姓は女性がしたらしい。しかし「旧姓への思い入れ」があったらしく、婚姻届を出した後酔って帰宅した妻に泣かれてしまったという。夫である彼は「自分が改姓してもよかったし、名前はどっちでもよかったのだけど」と言っていたが、実際今の日本だと確固たる理由もなしに男性に改姓してもらうのはまだまだハードルが高いよね…と彼の会ったことは無い新妻に思いをはせた。

それを別の独身男性に言うと「俺なら改姓に抵抗はないなあ。泣くほどのこと? 別に自分がやってもいいし、自分の名前にこだわりはない。ただ、あんまり珍名だったら抵抗あるかも」と言っていた。
だがしかし! 実際には彼はひとり息子なので、そんなこと言い出して、親がすんなり認めると思うのだろうか…。揉めに揉めるに決まってるじゃん…と思ったが黙っていた(ちなみに前回の「女はゴハン作れ圧力」とは別の男性である)。

あー、これは何かに似てるな…。と思った。
空手の試割りだ。
私は空手を始めてかれこれ11年。空手は「メンタルが具現化する」ことが多い。空手の試割りもその1つ。うちの流派だと瓦じゃなくて、杉板を割る。
審査や競技で試割りを見てるとみんなが割るので「ああ、板って割れるんだなあ」と思っていた。たまにもちろん割れない人もいるんだけど、大方の人が割ってるのを見ると「板は素手で割れる」とすり込まれていく。
そして、初めて自分がやるときになって「あれ?! …板だ!!」と気が付いた。
板に手を打ち付けるなんてこと、やったことない。板を目の前にして初めて「板を素手で割る」という行為が現実的に迫ってきて「何これ?!」と気が付いた。
でも、やることになってるので思い切ってやってみた。はじめてのときは1枚だったので割れた(競技や審査だと何枚か重ねて難易度があがる)。
ああ、割れるんだと思ったと同時に想像していたよりも手は痛かった。
「みんながやってることだから、当然だと思ってたけど、やってみるとビックリする」事だった。


改姓したことない人が「改姓に、抵抗ないなあ」って言うのは、試割りを見たことがあって、板を割ったことがない人みたいだな。と思った。
(…例えなのに特殊事例を出してるような気がする)


私は初婚のとき改姓に抵抗は無かった。母も姉も友達もみんなそうしていたし、子供の頃から「結婚したら女の子は名前が変わるからね」と散々すり込まれていた。
改姓に対しては「結婚して名前が変わるの〜ウフフ〜」的なウエディングハイは…無かった。正直めんどくさいけど、まあ、みんなそうしてるし、くらいの感覚だった。


でも実際にやってみると、とにかく名義変更の手続きが大変だった。
私はフリーランスなので取引先が多く、銀行口座の名義を変えることがリスキーなので、仕事の口座を旧姓で残し、別に改姓名義の口座を作り、保険や年金、税金の還付金の振り込みなどに使用していた。クレジットカードは新規に作ったり、期限が切れたものは改姓後の名義になってしまうので、引き落とし口座を改姓後の口座に変えたりした。収入が入金される口座と支払に使う口座が別なのでとにかく不便だった。


あと、改姓したことで「嫁に行った」というイメージで見る人が結構な数いるのだ、ということにも気が付いた。名前を変えると実際の家庭の力関係を見ずに「男の庇護下に入った」という風に見る人が少なからずいる。私はこっちのほうが嫌だった。
ここで「女は男のためにゴハンを作るべき論」とかもよく言われた。
特に親世代の人達は自分達がそうだったから何の抵抗もなく、一緒にいたとしても夕方になると「もう帰りなさい。ゴハン作る時間でしょ」と言うのだった。
「私が作らなくてもいいと思うんだけど」と言うと「向こうは外で働いているんだから、それくらいやってあげなさいよ」と言われる。で、ついついそこで今払ってる家賃と、元夫が家計に入れてる金額を言ってしまうと
「それでどうやって生活してるの?!」と驚かれる。
「だって共働きで生活費折半だもの」と言うと大体黙るか「なんでそんなのと結婚したの」という流れになった。

こういう「男を立てなさい」圧力が「改姓のデメリット」の1つかと言われると名義変更のめんどくささよりは印象論なので立証はできないのだけど、実際、現在は事実婚していて、その辺の思い込みやイメージ、実際に言われる圧力が如実に違うなあと思っているので、少なからず関係はあるだと思う。

三洋電機パナソニックの子会社となり「SANYO」ブランドが「Panasonic」に変わってしまったときに子会社化、という事実よりも「名前が消える」ことの衝撃は大きかった。こういうことからも、名前を残したほうがイニシアチブを取っている、と思われるのはある程度仕方ないとも思っている。

「結婚は子会社化じゃないよ!」ともしも男性が女性側に改姓して、それが「そっちの名前のほうが好みだったから」という極めてカジュアルな理由だったとしても「婿養子に入ったの? 家督を嗣ぐの?」と言われたり、女性側の実家が資産家だと思われたりするケースは避けて通れないと思う。


私は「選択的夫婦別姓制度」もさっさと認められればいいのにと思っている。
実際にそれが制度化されても「共有財産を持たない」予定の自分達がそれを選ぶかどうかはわからないが、求めてる人がいるなら選べるようにすればいいのにと思っている。
私は、離婚を経験して「戸籍」を2回変更したので、あくまでも「戸籍」も書類上のものでしかないのだと感じている。
「家族の一体感が」「子供と親の名前が違うなんて」とか言って反対してる人もいるが、戸籍なんか別に普段見ないで暮らしてるのだから、実際は「言わなければわからない」と思う。「自分の戸籍」を大事にするのはいいと思うけど「選択的夫婦別姓制度」反対派の「他人の家の戸籍が自分達と同じ価値観でないと嫌」というのも、私にはちょっとよくわからない。実際にはローカルルールやいろんな価値観があるわけで、私がただ「戸籍が大事」という価値観の環境ではないだけなのも理解はしている。
「戸籍が大事」という価値観を壊したいわけじゃないし、否定したりもしない。色々なケースに併せて柔軟に認め合えるのが私の理想だ。

私は「チーム名」としての「姓」はあると思っているので、「選択的夫婦別姓」をした人が実際に戸籍が父子別姓か、母子別姓だったとしても、子供と一緒に活動するときは子供の姓に合わせればいいのではないかと思っている(実際には戸籍名とかあんまり関係なくて「○○ちゃんママ」とか「○○ちゃんパパ」とか言われるのだろうし)。
銀行や金融機関の証明、パスポート作りと違って地域社会活動に身分証明は必要なく「事実的に誰が親子であるか」のほうが大事なのだから「家族としての名前」を通名使用すればいいと思っている。
今後、私はできる限り改姓したくないので、もしこのまま事実婚で子ができたとしたらそうしたいと思っている。

それは私が「改姓に伴うデメリット」を避けたいだけで、例えば「家督」が理由で「名前を残すため」に夫婦別姓にして、子が2人以上いて子の姓が別の場合は「チーム名」が2つある家になるし、思想的な主義主張で別姓にしたい人などは「地域社会においてもどちらかの姓に合わせたくない」などのケースはあると思うので「あくまでも自分の場合は」だが。


結婚、離婚で2回改姓してモヤモヤした私は、「もうできる限り改姓したくない」と思っていて、日々色々考えているので「改姓? 別にいいじゃん」という改姓したことのない人に対してモヤモヤっとしてしまった。
「改姓したことない人」は、改姓してみてからじわじわと「改姓したから起こる予想もしてなかったこと」を知ってビックリしたりモヤモヤすることはあると思うし、そこまでイメージしてみるといいと思う。でも、自分もやってみるまでそんなことわからなかったので、しょうがないよな。とも思う。知らないことは、わからない。


ちなみに結婚改姓して「すごく幸せ♥」とか「全然気にならない」「むしろやりたかった!」という人もたくさんいる。私の周りは働く女ばかりなので実感としては「女が改姓するの釈然としない」タイプが多いのだけど、親の世代とかだと「結婚して改姓してないなんて、恥ずかしい」レベルだったのも知っている。改姓が「私、結婚しましたよ!」という女性のステイタス表示だった時代が長かったのも知ってるし、今でもそれが理想の人がいるのもわかる。
でも、そういう人は空手の試割りで言うと「初めてでも何枚でも割れる、試割りが得意な人」みたいなものではないかなと思った。
そういう人は試割り大好きだし、割れない人に対して「えー? なんで割れないのー?」と思ったり、実際言ったりする。でも今時は夫婦の形も変わってきていて、実際に中々杉板が割れない人とか、やってみたら失敗してケガする人もいるし、そもそも試割りしたくない人もいるのだという事もわかってくれると嬉しいなあと思う。


ちなみに私は改姓は嫌だけど、実際の試割りは(決して得意じゃないですが)好きです。失敗して手が腫れたこともあるけど、割れると楽しいです。